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ラディケ
ミッキーが電話をしてきた。
ラディケが死んじまったって言った。

ラディケは千駄ヶ谷トンネルに住む男だった。
トンネルはお化けが出ることで有名だった。
トンネルの上には墓と仙寿院という名の寺が見えた。
それほど歳をくっているようには見えなかった。
三十代か四十代に見えた。
無表情が何だか寂しげに見えた。
トンネルのくすんだオレンジ色のライトの下で、寝顔は無防備にさらけ出されていた。
新聞や雑誌や漫画雑誌が傍らに積み重ねられていた。。
周りの車の喧騒にも、神宮の花火大会の人混みにも無関係と言わんばかりに、死んでいるのかとすら思わせるほど微動だにせず足を放り投げて寝ていた。
そしていつも臭かった。

そんなラディケは僕らに彼が何かに達観してそこに辿り着いたように思わせた。
ラディケに生じた断絶を想像する度に、僕ならあまりにも孤独で寂しくて耐えられないと思った。
ミッキーが僕に、奴はきっと詩人だよと言った。
僕は同意した。
そしてミッキーは、今日から奴をラディケと名付けようと言った。
僕はまた同意した。ラディケという名がとても彼に相応しいと思った。
ラディケはラディケになるよりもずっと前からそこに居たけれど、トンネルにラディケが誕生した。

今日車でトンネルを通った。

段ボールやラディケの家財道具は見当たらなかった。
ラディケも見当たらなかった。
ただ花が何輪か彼が寝ていた場所に置かれていた。


by babuox | 2007-03-07 05:49
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